実家がなくなるという経験

 

人生で、実家がなくなると言う経験をする日が来るとは思っていませんでした。

 

私は子供時代も、高校時代も、成人式も、真備町で過ごしました。

3年前の7月7日の朝、真備町はうそみたいにぽちゃんと大きな水溜りの中に沈んでしまいました。

 

実家は二階の床上30センチまで浸水し、家具も本もほとんど捨てました。

飼っていた金魚はお風呂場で見つかりました。

泥水の中を泳いだんだと思います。

 

母が言うには二階に避難している間、重たい冷蔵庫などの家電が水に浮き

ごつんごつんと当たりあっていたそうです。

 

私は実家に住んでいなかったので変わり果てた家を見たのは水の引いた1週間ほど後でした。

町はまるで映画のセットのようでした。

 

 

逆さまのまま誰も取りにこない泥だらけの車、

電線にひらひらとなびくシーツのような布、

屋根の上に当たり前のようにあるポリバケツ、

頭上でなり続けるヘリコプターの騒音、

迷彩服を着たたくさんの人と車、

嗅いだこともないような異臭、

汗を拭きながら黙々と作業し続ける近所の人たち。

 

こないだまであんなに親しかったはずなのに

まるで初めて会ったような顔をする家。

 

変わってしまった、と言うより別の場所に来た、

と言う感覚が強かったです。

 

実家は倒して更地にしたので今はもう何もなく、

両親は別の場所で元気に暮らしています。

 

育った実家はなくなってしまいましたが、新しい家を実家だと思っています。

父と母とおばあちゃんが住んでいれば、私にとってはそこが実家になるんだ、と思います。

ふるさとは、ずっと真備町のままですが。

 

***

 

今熱海では土砂災害で大変な思いをしている方がたくさんいると思います。

 

「生きてりゃなんとかなる」

もののけ姫のおトキさんの言葉が自然に思い出されます。

 

1日も早い不明者の発見と、暮らしの再建を祈っています。